記憶しろ…この旅を…
修学旅行で高峯のあと遭遇してしまった男子中学生の話。
下らない。
京都なんてありきたりな、古臭い街を歩くなんて。観光客だらけの商業主義に走った史跡や寺院を見学して何の見地を深めろって言うんだか。おまけに雨だ。友達からは真正厨二乙って言われてるけど下らない周りに合わせられないのが厨二だっていうならそれで構わないさ。
退屈げに班行動に付き合っていると何やら連中、騒ぎ出した。
アイドルの何とかいうのがいるとか何とか。
あっ走るなっての……。ガキじゃないんだからさ。本当に下らない。
……さすがに近寄るのも気が引けるのかやや遠巻きにして見てる。パパラッチかっての。
そんな騒いでる僕らに(僕は決して騒いでいないが)さすがにあちらも気づいたらしい。
客商売だ。お愛想に手くらいそりゃ振るだろ。何をそんなことでキャーキャーと。
と、思っていたら。
ひときわ背の高い、切れ長の瞳の女性と目が合った。何だこれ。こんな綺麗な人がこの世に存在したのか……?
柄にもなくドギマギしていると。
ニコリと彼女が微笑んだ。ダメだ。目を合わせてられない。
宿に戻ってからも上の空の僕を班の連中は散々弄ってきたけど反応がないのに飽きたらしい。こっちはそれどころじゃないんだよ。
班の中でちょっと暗い感じの子が夕食後こっそりやってきて色々画像を見せてくれた。
「高峯のあ」
それがあの人の名前らしい。
どの写真でも端正で、完璧に美しい。
でも僕にだけあの時見せたあの笑顔は。
あれは僕だけのものだ。
そう、思った。
「京都も悪くないかな……」